佐藤秀廊先生のこと

佐藤先生の写真 佐藤秀廊先生(1899年~1990年)は複音ハーモニカでの分散和音奏法、ヴァイオリン奏法、マンドリン奏法などの日本的奏法を創案し、またマイナーハーモニカを実用化し、完成させました。 現在私たちが演奏しているものは全て佐藤先生のお陰と言っても過言ではありません。

学生時代に佐藤先生の演奏会を聴きに行き、そこで聴いた「荒城の月」の音色に感激し、即座に先生の教室に入らせていただきました。先生は70歳代中頃でした。それが私のハーモニカとの付き合いの第一歩です。

佐藤先生のお声をお聞きになった方はほとんどいらっしゃらないのではないかと思います。幸いにも、私が教えていただいた時に録音したカセットテープに先生のお声が残っております。 もう45年以上も前で、まだウォークマンのような小型の録音機も発売されておらず、大きなラジカセを抱えてレッスンに通いました。

現在のデジタル録音と違って音質も良くはありませんが、先生直接の曲についての説明は皆様の演奏のお役に立つと思いますので、ユーモアあふれる先生の話ぶりやさまざまなエピソードなどと併せてこれから少しずつここにアップしようと思います。

佐藤先生との写真

佐藤先生の写真 佐藤先生に教えていただいていた頃の写真です。西荻窪の佐藤先生のご自宅前で撮ったものです。

当時、佐藤先生のハーモニカ教室があったのは大手町の産経学園とご自宅のみでした。 私は学生時代は町田市に住んでおりましたので地下鉄を使って夕方の産経学園の教室に通いました。産経学園では斎藤寿孝先生がお勤め帰りに時々寄られておりました。

卒業して栃木に戻りましたが、栃木から西荻窪のご自宅に通いました。ご自宅には間中勘先生もレッスンにいらっしゃっており、帰りのバスもご一緒したこともありました。 ご自宅の先生はリラックスされ、お着物姿が多かったことが思い出されます。

佐藤先生のレッスン(荒城の月)

私が佐藤先生に『荒城の月』のレッスンを受けている様子の一部です。全部で11分35秒です。レッスン中はいつも朗々としたお声で一緒に歌ってくださっていたので安心して吹けました。

前奏のところで装飾音とトリル(tr)についてお話しされています。こちらのトリルはゆっくり入ってだんだん早くとおっしゃっています。終りの部分と比較してください。 私のレッスンですので、ほとんど私が吹いていますが、後半6分35秒付近と7分45秒付近で先生が実際に吹いてくれています。音が全く違います。

先生は女性にはとてもおやさしくて「女性はオクターブは難しいから、前奏の後は分散和音に入りなさい」とおっしゃってくださり、しばらくはオクターブを吹いていなかったので、未だにオクターブは苦手です。

最後のほうで佐藤先生が編曲についての貴重なお話をされていますのでお聞きください。

佐藤先生のレッスン(青葉の笛①)

『青葉の笛幻想曲』の楽譜2ページ3段目のヴァイオリン奏法のところから最後までのレッスンを受けている様子です。

ヴァイオリン奏法の部分については、佐藤先生は「(ニュアンスを)楽譜では書き表せなかった!耳で聞いてまねをするように」と模範演奏をしてくださいました。 H.C.奏法から最後までの3段についても細かくご指導くださっています。

私の演奏に合わせて先生はずっと歌ってくださっていますので、歌声が聞こえない部分は先生の演奏です。レッスン中、話し声や笑い声が入っているのは、何人かの生徒さんが集まることが多かったからです。

佐藤先生のレッスン(青葉の笛②)

上の①とは別な日のレッスンです。

先生はレコードを参考に練習するようにおっしゃられましたが、私は先生の「お琴との二重奏のテープしか持っていません」と言いましたら通して曲を吹いてくださいました。 この日も最後に「まねをするように」とおっしゃっております。楽譜はもちろん大切ですが、耳から音を聞いて練習する大切さを教えてくださっています。

佐藤先生の演奏:青葉の笛(琴との二重奏)

青葉の笛②の話のところで出てきた佐藤先生の『お琴との二重奏の青葉の笛』です。独奏の『青葉の笛』とは異なります。 お近くにお琴を弾かれる方がおりましたらご一緒にいかがでしょうか。お琴の楽譜もあります。

佐藤先生はこの『青葉の笛』以外にも『荒城の月によせて』、『月の沙漠』、『花嫁人形』などお琴との二重奏を30曲ほど編曲されています。琴とハーモニカを合わせるための編曲には大変ご苦労されたようです。

佐藤先生のレッスン:ワルツについて

佐藤先生が『ワルツ・アコーディオン』を吹きながらワルツについてのお話をされています。

佐藤先生は昭和2年(1927年)にドイツのトロシンゲンで開かれた「ハーモニカ100年祭」で入賞し、その後ヨーロッパ各地を演奏旅行した後、3年ほどフランスやドイツを中心に遊学されました。 その影響で佐藤先生は海外の曲をたくさん編曲しており、その中に軽快なワルツの曲がたくさんあります。このレッスンではワルツのテンポなどについてお話をされています。

佐藤先生のお話:『行商人』について①

私がレッスンを受けている時の録音です。先生が『行商人』を編曲された時の事や、この曲をロシアで演奏して大喝采を受けたこと、佐藤先生ご自身がこの編曲を気に入られているということなどをお話しされています。

佐藤先生のご自宅でのレッスンでしたが、ちょうど家の工事を行っており、その雑音が入ってしまいました。

佐藤先生のお話:『行商人』について②

『行商人』について①の続きです。『行商人』の最後の部分の演奏についてお話しされています。

『行商人』を演奏された方なら経験がおありでしょうが、最後の部分でオクターブ奏法で盛り上がり、解放ベースで伸ばしている時に、観客の皆さんが曲が終了したと思って拍手をしてしまうことがあります。 本当はバイオリン奏法による4小節が残っているのです。そのような時にどうすれば良いか佐藤先生がユーモアたっぷりにお話をされています。

佐藤先生のエピソード

10月13日は佐藤秀廊先生の命日です。先生は明治32年(1899年)に東京でお生まれになり、平成2年(1990年)に91歳でお亡くなりになりました。

先生はご高齢になられてもとてもお元気で、1979年に80歳になられたのを記念して9月24日に「八十路を歌うハーモニカ」と題して特別演奏会を行いました。その演奏会に先立ち、同年9月10日のNHKテレビの高齢者向け情報番組「お達者ですか」にご出演され、30分に渡って酒井広さん、小鳩くるみさんと軽妙なトークを繰り広げました。

放送の中で、先生はヨーロッパで開催された「ハーモニカ100年祭」に日本代表として参加されて優勝された時の事や、思い出の曲、若い頃の夢など幅広く語られており、最後に「埴生の宿」を小鳩くるみさんと一緒にお歌いになっています。80歳にして歌手の小鳩くるみさんが感心するほどの美声です。 放送の中で司会の酒井さんから「これから始める方へのアドバイスをお願いします」と言われて、先生は「水泳の時は実際に水に入って水に慣れなければいけない。ハーモニカもハーモニカに慣れなければいけない。ですから楽譜なんか分かっても分からなくても良いから、年中ブカブカ吹いていること。絶えずハーモニカに浸っていると、ひとりでに頭の中にある音楽が探り吹きで吹けるようになる。譜面にこだわる必要はない。譜面を読めないのはむしろ名誉なこと。」と熱く語っておられました。

当時はまだビデオレコーダーは普及しておらず、映像は残っておりませんが、私が録音した音声は残っております。先生のお話や美声をここにアップして皆さんにお聞かせしたいのですが、残念ながらNHKではテレビやラジオの映像や音声をインターネットに流すことは認めておりません。録音したものをここにアップすることはできませんが直接お聞かせすることは出来ますので、機会がありましたらお聞かせします。 その代わりに、同年1月に私がレッスンに行った時の録音に「昨年数えで80歳になった。これまで仕事をしてきたが、これで一区切りとして、これから生まれ変わったつもりで新しく生き直して新しいことをしたい。随筆も書きたいし、指導書も本格的なものを書きたい」という、常に新しいものを求める佐藤先生のお声が残っておりましたので、そちらをアップします。短いですがお元気なお声をお聞きください。

先生は、常々「僕は種を蒔いているだけだよ」とおっしゃっておりました。先生が蒔いていただいた種が大きく育ちますように、私も微力ながら尽力して行こうと思っています。